東京高等裁判所 昭和36年(う)2562号 判決
被告人 林みよ子
〔抄 録〕
検察官の控訴の趣意第一(法令適用の誤り)について。
売春防止法第十二条が規定する、人を自己の占有する場所に居住させこれに売春をさせることを業とする罪は、本来継続的性格を有する罪であるから、右の場所が各別の数個の場所であつて、その各々に居住させてある人をして売春をさせることを業とする等の特殊な事情がある場合は別として、右のような特殊な事情が認められない場合においては、自己の占有する場所に居住させこれに売春をさせた婦女が一名であつて、右一名の婦女をして数名の各別の男性を相手として売春をさせた場合においても、また、右婦女が数名であつて、この数名の婦女をしてそれぞれ数名の各別の男性を相手として売春をさせた場合においても、その全体を包括して右法条違反の一罪が成立するものと解すべきであり、本件起訴状記載の公訴事実も、別紙一覧表をもつて1乃至5の二名の婦女による五回の売春行為を各別に明示はしているものの、本文の文章自体並びに罪名及び罰条として売春防止法違反、同法第十二条とのみ記載するに過ぎないことに徴しても、その全体が一罪を構成するものとして起訴したものであることは、容易に看取できるところである。それ故、右の公訴事実については、かりにその内容をなす一部の売春行為について、売春行為の行われたこと自体それを認めるに足りる証拠がない等の理由により、これを罪となるべき事実のうちより除く場合においても、判文中においてその理由の説明をすれば足りるものであつて、右の部分につき主文において無罪の言渡をなすべきではなく、また、一名の婦女をして数名の男性を相手として売春をさせた事実を認定する場合においても、その全体に対し売春防止法第十二条を適用処断すれば足り、各売春行為毎に併合罪の関係にある数罪が成立するものとして併合罪の加重をすることは許されない。しかるに、原判決は、その証明がないとした一部の事実について主文において無罪の言渡をしているほか、被告人がその経営する料理店「美鳩」の店内に居住させた安藤一子をして昭和三十五年七月二十三日頃山口将行を相手として売春をさせた事実及び同年八月二十六日頃長田昇を相手として売春をさせた事実並びにそれが業としてなされたものである事実を認定し乍ら、売春防止法第十二条のほかに刑法第四十五条前段、第四十七条本文、第十条、第四十八条をも適用処断していること、所論のとおりであるから、右は、いずれの点においても、売春防止法第十二条の解釈適用を誤つた違法のあるものであり、右の各違法は原判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決はこの点において破棄を免れない。
(久永 上野 赤塔)